敦賀市地域おこし協力隊アテンド!敦賀アーケードツアー(前編)

福井県での生活と言えば、どこに行くにしても車が必要。そんな車社会の福井県だからこそ、歩いて楽しめる場所をうっかり見落としていたりします。

「少し速度を緩めてあたりを見渡してみると、実は側にあった面白い場所や人に気づけるかもしれない。」
そんな思いから、今回の読みものでは歩いて楽しめるコースをご紹介していきます。



舞台になるのは敦賀駅前から連なる商店街たち。大きく長い屋根がかかり、時代を感じさせる建物やフォントに心を弾ませます。

敦賀といえば、赤レンガ倉庫や氣比神宮などの景勝地などで知られていますが、今回はいわゆる観光地からは少し視点をずらし、敦賀住民が「ここいいな、好きだな。」と思う地元の隠れスポットに注目していきます。



そして、今回敦賀のアーケード散策のアテンドをしてくれるのが、敦賀市の地域おこし協力隊の西山綾加さん。2020年に東京から福井へ移住し、敦賀市としては初の地域おこし協力隊として、主に敦賀の情報を発信して活動をされています。(西山さんの人生だけでも記事を一本書けてしまいそうなのですが、それはまた後日……)

それでは早速スタート! 

……とその前に、少しだけ敦賀について説明を。



敦賀は福井県の南西部に位置する市で、半島に囲まれ日本海に面した良港として知られています。江戸時代には北前船の寄港地として海運による商業も栄え、港町としてのイメージが強まりましたが、明治以降、港の発展を支えたのは意外にも鉄道でした。というのも、敦賀は日本海側で最初に鉄道が敷かれたまちなのです。



当時、日本からヨーロッパへの移動は、船を利用して1ヶ月もかかる長旅だったようですが、欧亜国際連絡列車(※1)が敦賀に開通したことで生活は一変。シベリア鉄道経由のルートでは、東京-パリ間をわずか17日間で繋ぎ、多くの人々や文化を運びました。また、新橋駅からフランス・パリまでの切符が購入できたとのことで、ロマンを感じます。

さらに、この敦賀市には、1940年から1941年にかけて、外交官・杉原千畝の「命のビザ(※2)」によって助けられた約6,000人ものユダヤ難民が上陸したという歴史もあります。すなわち、敦賀はヨーロッパと日本を繋ぐ玄関口。日本海側の交通の要所として、鉄道と港とともに歩んできたまちなのです。

※1 明治45年6月から新橋(東京)‐金ヶ崎(後に敦賀港駅と改称)間で運行されていた列車。ウラジオストク直行の船に連絡し、ウラジオストクからはシベリア鉄道を経由してヨーロッパへと通じていました。
※2 当時、ユダヤ人という理由だけでナチスから迫害を受けていた人々を国外へ逃がすために、杉原千畝がビザを発行して命を救ったという歴史があります。



さて、話をアーケードに戻していきます。駅前から敦賀市立博物館のあたりまで、アーケードの長さは中心市街地を網羅するほど。実はそのアーケード沿いには、5つの商店街が連なっているのです。今回はその中でも、本町2丁目から順に3つのアーケードを紹介したいと思います。

「本町2」と書かれた三角看板と、ちょっと無骨なアーケードが特徴的。

今回はなんの変哲もないただの平日の昼下がり。落ち着いた雰囲気のアーケード街を堪能ということで、まず目に飛び込んできたのが、



あまりにも突然現れるポスト……(投函はできなさそう)



と、ぽつんと佇むたぬき……



と、縦80cmくらいありそうな、でかい天狗(×2)

……町中になぜこんなものが置いてあるのかは不明ですが、まち歩きだからこそできる未知との遭遇。

余談ですが、西山さんがこの天狗を調査したところ、1体は個人の趣味で展示されているものなのだそう。そして、もう1体分は展示されている天狗を見た人が「自分もほしい!」と思い買ったものだそうです。ただ、買ったのは良いものの、想定していたよりも大きすぎたため、自分で管理するのが難しく、結局一緒に並べられることになったとのこと。

そんなストーリー、一体誰が想像できるでしょうか。

半分だけ開けられたシャッターから覗く、ポストとたぬきと天狗。「普段ここを通る人は何を思っているのだろう」と、敦賀駅前商店街の日常に思いを馳せ、アーケード内をゆっくりと歩き始めます。


AUDIO WATANABE



さて、一旦天狗は頭の隅に大切にしまい、まずやってきたのが、黄色に赤文字のロゴが目立つ「AUDIO WATANABE」(このマークの雰囲気どこかデジャヴじゃないですか…?)



AUDIO WATANABEは、1975年創業の敦賀市本町にある楽器とオーディオ販売の老舗店。新品・中古、ギターやベース、ウクレレ、キーボード、アンプ、エフェクター、各種アクセサリーやスコアなどを販売しているお店です。なんと、バンド練習ができるレンタルスタジオまで併設。他にも、楽器の修理(リペア)や機材レンタル、中古買取など、音楽生活を完全にサポートしてくれます。

店内には楽器やオーディオ機器がずらり。


さらに、2階にはレコードや8cmCDなど、ノスタルジックな気分にさせてくれるお宝で溢れています。西山さんもここに来てから家でレコードを聴くようになったそうです。




「私ここでターンテーブルとか諸々一式買ったんですよ。レコードが中古で100円ってめちゃくちゃ試しやすいじゃないですか。それでこの中古レコードでDJとかしたら楽しそうじゃないですか?」

生活の中で何かお宝やコンテンツを発見しようと常にアンテナを張る西山さん。地域おこし協力隊として、日常の隙間に知らず知らずのうちに隠れてしまっているまち魅力の源を発掘し、そしてそれを面白がって発信していくこと。元々敦賀と縁もゆかりもなかった西山さんだからこそできることなのかもしれません。



「敦賀ってなんにもないでしょ?」と言う店員さんに対し、「いやいや、めちゃくちゃ面白いですよ。にしんずしとか、昆布とか。」とあっけらかんと返す西山さん。敦賀で生まれ育った店員さんと、敦賀のことは何も知らずにやってきた移住者の西山さん。お互いの目線で感じる敦賀の「なんか良い」は、バックグラウンドも立場も違うからこそ、新鮮な面白さがあるのかもしれません。

そして余談ですが、実はさっきご紹介した天狗。展示されている天狗を見て「自分もほしい!」と思い、買った方がこの店員さんです。笑

オリジナルステッカーをちゃっかりもらいました。

ちなみに「AUDIO WATANABE」のロゴマークは、オーナーさんがかつてアメリカに行ったときに、大手CDショップチェーン「タワーレコード」を見て格好いいなと思い、日本に帰ってから自分のお店の参考にしたんだとか。当時はまだ日本にタワレコが進出していなかったこともあり、もしかするとAUDIO WATANABEさんは、タワレコカルチャーを持ち込んだ最初の日本人かもしれません。



AUDIO WATANABEさんを出て少し歩くと、アーケードのデザインがガラリと変わりました。続いてのアーケードは、黄緑の屋根とピンクと緑(青)のマークが目印。



諸説あるそうですが、このピンクは敦賀でも有名な金ケ崎桜のピンクを、そして緑は気比松原の松の色をイメージしていると言われています。


敦賀アーケードツアー(中編)に続く

案内人

谷垣奈穂
谷垣奈穂
TOURISTORE/SAVA!STOREスタッフのかたわら、ライターをしています。人生にさまよい、縁もゆかりもない鯖江に奈良より漂流しました。現在はシェアハウスに住み、豊かで忙しない日々を楽しんでいます。